手塚治虫 奇子(あやこ)

手塚治虫といえば、「鉄腕アトム」や「リボンの騎士」、「ブラックジャック」、「火の鳥」などたくさんの名作を世に送り出した漫画家。
小説やらマンガやら全部含めて、自分が最も読んでいる作家です。
「火の鳥」は非常に考えさせられる作品であり、読み応え十分。
たくさんおもしろいマンガがありますよね。

その手塚治虫の作品の中でも、人間をもっとも醜く描いている作品が「奇子」ではないでしょうか。

時は昭和の敗戦後。
田舎の資産家の家系に生まれ、戦争に行っていた天外仁朗が実家に帰ってくるところからスタート。

強烈なノンフィクションを見ているようなリアルさを感じる作品です。
SFとか歴史モノとかファンタジー・・・
手塚治虫が描くものは実によくできていておもしろい。
ブラックジャックなんて、医学博士の知識をフルに生かした内容がこれまたおもしろい。
でも奇子は違います。

村社会の閉鎖性や、ゆがんだ人間関係、道徳観、全体に広がる政治的な思想とかこれでもかというくらいに醜く描かれています。
奇子という人物が、その負を凝縮したような位置にいます。
元々自分は手塚治虫作品にクリーンなイメージは持っていないので、問題なかったですが、クリーンさを先入観で持っているひとはきついかも。
救いは全くありません。
未来とか、希望とか全く描かれていません。

自分はたまたま中古で奇子を見つけて、何の気なしに買って、このどぎつさに衝撃を受けました。
ノンフィクション小説のような感じで読んでいたのですが、絵があるからこそ余計にきついかもしれません。
大人向けマンガとしても、読者を選びそうな感じ。